梅毒~古くて新しい感染症~

広島市医師会便り平成30年10月号より

広島大学病院 輸血部 准教授 藤井 輝久 先生

 症状のな無症候性梅毒の診断も増え始め、ついには、年間5000例を超える報告数となっている。広島も例にもれず、報告届出数増加の一途をたどっており、ここ数年は都道府県別届出数10位以内を維持している。

症状(顕性梅毒)
 梅毒は特徴的な症状を示す顕性梅毒のほかに、症状なく感染して血清抗体価の上昇のみ認める無症候性梅毒がある。この2つは別の病態ではなく、梅毒第1期、第2期に見られる症状がなく経過し、その後晩期となるまでの期間であるとも言える。報告例のうち無症候性は男性の約1/6、女性の約1/3を占める。しかし、男性でも同性間性的接触による感染に限ると約2/5となる。ここでは、顕性梅毒の症状を示す。

早期1期(第一期)
 感染後約3週間で、T.p.の侵入部局所において病変ができる時期。硬結ができた後、周囲が盛り上がり中心に潰瘍を形成する「硬性下疳(こうせいげかん)」がみられる。ヘルペス潰瘍との鑑別が問題となるが、痛みを伴わないことが特徴的である。またオーラルセックスでは、T.p.の侵入部位は口腔内のために口唇や口腔内に病変を認めることがある。口腔内白色病変は、従来「梅毒性アンギーナ」として第2期に分類されていた、一部発赤を伴う隆起製病変である。いずれも治療せずに2-3週間で自然消失する。

早期Ⅱ期(第2期)
 感染後約3ヶ月で、T.p.が血行性に播種して侵入部局所以外にも皮疹などを来たす時期。その中でも、最も早期にかつ特徴的な皮疹は「バラ疹」である。これは、躯幹や四肢を中心に出現し、淡紅色の数ミリ~1センチ程度の大きさで痒みは伴わない。また角層の厚い掌や足底に丘状皮疹ができる「梅毒性乾癬」も診断するに容易な皮疹である。膿泡が見られることもあり、その場合、「膿泡性梅毒疹」は、全身状態が不良または免疫低下例でよく見られる。またこの時期はT.p.が全身に播種しているため、皮疹のみならずリンパ節腫脹、筋肉痛、咽頭炎を伴うことが多い。また胸膜炎、脈絡膜炎を起こすのもこの時期が比較的多い。

晩期(第3期、第4期)
 従来の第3期、4期にあたり、感染後数年経過した時期。最近は第3期の症状(結節性梅毒疹、ゴム腫)などはほとんど見られないため、晩期梅毒として4期とあわせて記される教科書も増えてきた。大動脈炎(瘤)、神経梅毒などを起こす時期で、感染後無治療の場合、約3割がこのステージに入ってくると言われている。筆者らは腸管梅毒を何度か経験しているが、治療が遅れた場合には、腸管穿孔なども起こす場合もあるので、早期診断・治療が大切である。