血液検査パニック値に係る死亡事例の分析

2024年12月号 医療事故調査・支援センター編

事例1
①60歳代、変形性股関節症で手術予定の外来患者
②術前の血液検査
③患者は下肢痛があり変形性股関節症の診断を受け手術の方針となった。術前検査時は、食事がとれず倦怠感の訴えがあり点滴後帰宅した。検査結果は、WBC 21500、CRP 34であったが、パニック値の項目や閾値の設定など報告の仕組みがなかった。患者は、2日後に倦怠感があり救急外来を受診し、その後意識障害が出現した。医師は、その時に術前検査値を確認し、敗血症のため転院搬送した。
④搬送先に到着直後(パニック値検出より2日後)に死亡。
⑤死因は、腸腰筋膿瘍による敗血症。Aiなし。解剖無。

事例2
①70歳代、乳癌・肺癌術後。転移性脳腫瘍に対し化学療法中。深部静脈血栓症に対しワルファリン内服中の入院患者。
②PT-INRの定期採血。
③医師は休暇中であったため、事前にオーダーしていたPT-INR>5.8(5.8以上で測定不能)の検査結果の確認に至っていなかった。検査結果は医師が確認するルールのため、臨床検査部門から医師へのパニック値の報告はなかった。また、薬剤師は検査結果を確認したが疑義紹介にいたらず、ワルファリンは継続処方・投与された。患者は、約1時間後に嘔気が出現し、発語内容が不明になり、緊急CT検査の結果、脳出血と診断された。医師はこの時に、前回の検査結果を初めて確認した。
④脳出血の診断から約7時間後(パニック値検出より約1週間後)に死亡。
⑤死因は、脳転移巣からの出血による脳幹圧迫および脳室穿破による推定症。Aiなし。解剖無。

事例3
①10歳代、多発奇形で定期外来受診時に嘔吐、微熱の症状があった外来患者。
②原因検索目的の検査。
③医師は診察時に再診を1か月後に予約し、患者は血液検査後に帰宅した。臨床検査技師はCRP 50のため再検査を実施した。検査値確定後にオーダーした医師と該当外来へ連絡したが、外来終了後で報告ができず、電子カルテは検査結果を送信した。オーダーした医師が風情時の報告ルールはなく、それ以降の連絡はしなかった。患者は、症状が続いたため3日後に受診した。医師はその時に、前回の検査結果を確認、髄膜炎および敗血症性ショックと診断し、患者は緊急入院した。

④入院翌日(パニック値検出より4日後)に死亡。

⑤死因は、髄膜炎による敗血症性ショック。Aiなし。解剖なし。

事例4

①70歳代、胆管がん術後、門脈血栓症に対しワルファリン内服中の外来患者。

②PT-INRの定期採血。

③医師は、診察日ではない画像検査日に血液検査をオーダーし、次の外来受診日に検査結果を説明する予定にした。検査結果では、PT-INR 7.71であった。臨床検査技師は、医師に「PTが異常値です。異常値なので電子カルテで確認してください。」と電話で報告した。医師はパニック値の報告を受けた記憶がなかった。患者は、次の外来日前夜に会話が不能となり緊急搬送された。

④病院到着後7時間半後(パニック値検出より1週間後)に死亡。

⑤死因は、視床出血からの閉塞性水頭症による脳幹損傷。Aiなし。解剖無。

事例5

①50歳代。腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症に対する固定術後。術後2日目に発熱、血圧・意識レベルの低下があり、出血性ショック疑いの入院患者。

②原因検索目的の検査

③通常は外部へ委託し検査をしていたが、至急のため院内の検査機器を使用し検査を行った。パニック値を医師は報告するルールがなかったため、臨床検査技師は、検査結果を取りに来た看護師に「値が低いです」とWBC14x10の2乗と表示された検査結果の用紙を手渡した。院内検査機器の桁表示は(10の2乗)のためWBC1400であった。しかし、通常の外部委託検査の結果の桁表示は(x10の3乗)であったため、看護師は医師へ「WBC14000」と報告した。その後、患者は消化管穿孔疑いで他院へ救急搬送された。

④搬送翌日(パニック値検出翌日)に死亡。

⑤死因は、手術時の腸管損傷による壊死性筋膜炎。Aiなし。解剖有。

 

事例6

①80歳代、大腸がん術後、2型糖尿病。虚血性心疾患の既往有。胃部不快感の訴えと水分摂取しかできない救急外来患者。

②原因検索目的の検査

③腹部X尖検査でニボー像があり、当直医師は生化学検査の結果確定前に、消化器内科医に電話で相談し、症状が乏しいことから翌日再診の方針とした。患者の帰宅後に生化学検査の結果が確定し、臨床検査技師は当直医師へ報告した。K6.5の他、複数のパニック値があったため、当直医師は消化器内科へ再度相談したが、翌日再診の指示に変更はなかった。

④翌日再診より約3時間後(パニック値検出より約16時間後)に死亡。

⑤死因は、高カリウム血症に関連した不整脈。Aiなし。解剖なし。

 

事例7

①70歳代。腎腫瘍にて腎摘出後、鉱質コルチコイド反応性低ナトリウム血症のため合成鉱質コルチコイド、塩化カリウム内服中。陰嚢水腫根治術後の入院患者。

②手術翌日の定期採血。

③臨床検査技師は、K2.5のため病棟へ連絡した医師は内服再開と通常の点滴交換の時間(約2時間後)に塩化カリウム投与の指示を入力した。看護師が塩化カリウム投与のため法室すると患者は心肺停止状態であった。

④手術翌日(パニック値検出より約3時間後)に死亡。

⑤死因は、電解質異常による不整脈。AIあり。解剖無。

 

事例8

①70歳代、虚血性心疾患、心房細動、脳梗塞、2型糖尿病があり、下肢動脈閉そくに対し、緊急大腿切断術予定の外来患者。

②術前の血液検査

③臨床検査技師は、医師はK2.1のパニック値を報告した。医師は低カリウム血症の認識はしていたが、緊急手術の準備を優先し、カリウム補正やモニター装着のないまま下肢造影CT検査を実施した。造影剤注入1分後、呼名反応がなくなり、心電図モニターを装着すると心室性不整脈が出現していた。

④造影剤投与より約1時間後(パニック値検出当日)に死亡。

⑤死因は、心室性不整脈。Aiあり。解剖なし。

事例9

①60歳代、急性心筋梗塞でPCI後の入院患者。

②PCI翌日の定期採血。

③医師は、CK1263と心電図検査を認識し入院継続を勧めたが、患者が退院を希望したため、PCI施行2日後に退院した。救急者到着時は心肺停止状態。搬送後死亡。

④死因は、急性心筋梗塞に伴う心破裂。Aiあり。解剖無。

 

事例10

①90歳代、慢性腎不全。左半結腸切除術後の入院患者。

カリウム補正中の定期採血。

③術後に利尿剤投与のための低カリウムを補正していたが、臨床検査情報システムの検査結果は、27項目中13項目が異常値であり、パニック値との区別がなく赤字で表示されていた。臨床検査技師は、そのうちのK>10とナトリウム 161に気づかなかった。看護師は、処方されていた塩化カリウムを注入し、投与約2時間後に心室細動が出現した。医師は急変後に検査結果を確認した。

④急変より約3時間後(パニック値検出より約7時間後)に死亡。

⑤死因は、急性腎不全。Aiなし。解剖無。

 

事例11

①80歳代、前立腺肥大に対し、経尿道的レーザー前立腺切除術後の入院患者。

術後覚醒不良の原因検索目的の検査

③検査室へ提出された動脈血液ガス分析検査の結果はPh6.83と表示されたが、PaCO2,HCO,BEの検査結果は表示されなかった。検査値を把握した担当医はアシデミアがあることは認識していたが、PaCO,HCO,BEの値が不明であるため原因を推定できなかった。検査機器には「値が異常高値の場合、表示されない」という特性があったが臨床検査技師は知らなかった。

④術後約15時間半後(パニック値検出より約11時間半後)に死亡。

⑤死因は、術後CO2ナルコーシスに伴い、呼吸抑制や血圧低下が生じたことによる心不全。AIなし。解剖有。

 

事例12

①30歳代、妊娠中の血液検査に問題がなく妊娠31週で死産した有床診療所の入院患者。

嘔吐・過換気の原因検索目的の検査。

③臨床検査からK7.5の他、複数の異常値を含む検査結果がファックスでとどいた(血糖検査のオーダーはなかった。)ファックスにはパニック値を示す表示はなかった。助産師は患者の症状からHELLP症候群の発症を想定し、多くの異常値の中から血算、肝機能、炎症反応のみ帰宅した医師へ電話報告した。医師は、症状緩和の薬剤投与と経過観察を指示していたが、患者は不穏状態から心停止となり緊急搬送された。

④搬送先到着約40分後(パニック値検出より約7時間半後)に死亡。

⑤死因は、劇症1型糖尿病によるケトアシドーシス、AI有。解剖有。