PPI(プロトンポンプインヒビター)と胃癌に関する臨床研究
日本内科学会雑誌 2023年1月号より
平田 喜裕 先生(東京大学医科学研究所先端ゲノム医学分野)
以下引用
PPIが臨床に登場したころから潜在的な胃癌発生促進を懸念する意見があった。しかしH.pyloriの発見以降胃癌の感染症としての側面が強調されることになり、PPI, そして酸分泌抑制と胃癌の関係は注目されることは少なくなっていた。
しかし2017年秋に二つのグループよりPPIの服用が胃癌のリスク因子となるという大規模なコホート研究結果が発表された。一つは香港のヘルスケアデータベースを用いた研究であり、63000人余り平均7.6年の観察でPPI服用者は非服用者に対して胃癌のリスクが2.44倍という結果であった。もう一つはスウェーデンの人口ベースから抽出された約80万人のPPI服用者(180日以上の服用歴)の胃癌発生率が、年齢、性別、対象年度をマッチさせたコントロールのくらべ3.38倍という結果であった。これらの大規模コホート研究以降、PPIと胃癌に関する研究が次々の発表された。2021年までに報告された13の研究のメタ解析によればPPI服用による胃癌のオッズ比が非服用者の1.94倍【95%信頼区間1.47―2.56】とわずかに促進する可能性が示唆され、PPIの適正使用についての注意喚起がなされている。これらの研究は東アジアの研究が6報と最も多く、ヨーロッパからは5報、北アメリカより2報が含まれているが、いずれでも同様の傾向が見られており、人種、地域によらない影響であることを示している。胃癌のタイプとしては、噴門部癌と非噴門部癌に分けて検討されているものが多く、メタ解析では非噴門部癌のみで胃癌発生リスクの有意な上昇(2.20倍[95%信頼区間1.44-3.36])がみられている。一方PPIの投与期間や投与量の影響は報告によって異なっており、明確な傾向はでていない。研究間でこれらのカテゴリー分類が統一されていないことも一因と考えられる。
このように日常臨床に登場して30年近く経過しPPI服用患者が非常に増えてきたこともあり、PPIが胃癌発症リスクを増加させることを示す研究結果がみられるようになってきた。しかし、これらのすべての報告は後方視的コホート研究、症例対象研究であり、前向きに因果関係を証明したものではないことには留意する必要がある。また、PPI服用期間についても、半年以上の規則的な服用者を対象としているものがほとんどであり、日本の潰瘍症の適応である6wもしくは8wという短期間の服用に関する検討はないため、短期間で癌リスクが増加するかについては不明である。
コメント:使いだして、30年たってやっとわかってくることがある。
いずれにしても、PPIは使われ過ぎだと思う。