糖尿病で感染症になりやすい理由

https://www.asahi.com/articles/SDI201705175841.htmlより

岩岡秀明医師

1. 糖尿病で感染症になりやすい理由

糖尿病患者は、感染症にかかりやすい状態(「易感染性」といいます)になります、その主な理由は以下の4つです。

(1)白血球(好中球)の機能低下

白血球の一種である好中球は、体内に入り込んだウイルスや細菌を食べる働きがあります。しかし、高血糖時はこの機能が低下してしまいます。

通常、血糖値が250mg/dl以上になると好中球の働きが鈍くなります

(2)免疫反応の低下

一度感染したことのある病原体には「抗体」が作られるため、次に体内に侵入しても感染しづらくなります。これを「免疫反応」といいます。

高血糖時は、この免疫反応が弱くなることが分かっています。

(3)血流の悪化

高血糖になると毛細血管の血流が悪化します。これにより、身体中に十分な酸素や栄養を届けられず、細胞の働きが低下し、好中球が感染部位に到達しにくくなります。

さらに内臓の血流の悪化により、肺炎、胆嚢炎(たんのうえん)、膀胱炎(ぼうこうえん)、腎盂腎炎(じんうじんえん)などの感染症にかかりやすくなります。

(4)神経障害

糖尿病に特有な合併症の一つに神経障害(しめじの「し」)があります。

神経障害では痛みを感じる神経が障害されますので、症状に気づきにくく、感染の発見を遅らせます。

神経障害は足から始まりますので、特に足の感染に注意することが重要になります。

 

2. 糖尿病で重要な感染症

1) 足の感染症

糖尿病患者は、神経障害で痛みを感じる感覚が鈍くなっていることや、動脈硬化によって血流が悪くなっていることなどから、靴ずれ・ケガ・火傷(やけど)などが悪化して、足の潰瘍(かいよう)になり、さらには足の組織が死んでしまう壊疽(えそ)という重大な状態に陥りやすいのです。

日本では、足の壊疽によって年間数千人の糖尿病患者が足を切断しています。足切断原因の第1位が糖尿病です。

 

 

足の感染は予防と早期発見が重要です。

血糖値を良好にコントロールすると共に、足の清潔を保ち、足の点検を毎日きちんとすること、靴ずれや深爪に気をつけること、足のキズ・うおのめ・たこ・水虫を放置したり自己流の処置をしたりしないことが重要です。

 

2) 呼吸器感染症

糖尿病患者は肺炎にかかりやすく、加齢と共にそのリスクは上昇します。糖尿病患者では、肺炎球菌、クレブシエラ、結核などにかかるリスクが高くなります。

したがって、肺炎が疑われる場合は、必ず肺結核か否かを明らかにすることが重要です。

結核は、糖尿病患者ではつねに念頭におく必要がある重要な感染症です。

2007年から2010年までのわが国の糖尿病合併結核罹患患者の66.9%が高齢者でした。逆に、結核患者の15.3%は糖尿病を合併していました。

糖尿病患者では、活動性結核(咳などの症状があり治療が必要な状態)や難治性の結核になりやすく、死亡率も高くなります。

糖尿病を合併した結核患者の死亡率は糖尿病非合併例の6倍以上という報告があります。

 

3) 尿路感染症

糖尿病患者は、腎臓の感染症である急性腎盂腎炎に4~5倍かかりやすくなります、特に重症または治療抵抗性の急性腎盂腎炎が多く、死亡率も約5倍高くなります。原因菌でもっとも多いのは大腸菌です。

なお、無症候性細菌尿(尿に細菌はいますが、症状が無い状態)も多いのですが、抗菌薬治療では良くならないため、治療せずにそのまま経過をみることになります。

 

3. 感染症時の血糖コントロール

糖尿病患者が感染症になると、通常は高血糖になります。さらに脱水も伴うと著しい高血糖になり、生命にかかわる「高浸透圧高血糖症候群」をきたす危険性があります。

一方、重症の敗血症では低血糖になることもあります。

さらに感染症になると急に食欲不振となり、血糖コントロールが不安定となりやすいのです。

高血糖も低血糖も予後が悪く、また血糖値の変動幅が大きいほうが、敗血症の死亡率を高めるという報告もあります。

このような重症患者の治療は、入院をしてインスリンを24時間持続的に静脈注射して血糖値をコントロールします。血糖値は、100~200mg/dl位を目標にします