ライム病とは

ドクターサロン 2024年9月号 石黒信久先生

Q  ライム病とはどのような疾患でしょうか。

A ライム病はマダニにより運ばれる、スピロヘータ科のボレリア属細菌により引き起こされる感染症です。マダニに刺されたからといって、菌を持っていなければ罹患しないのですが、この菌を持ったマダニに刺されると罹患してしまいます。罹患すると関節が腫れたり、関節炎をおこしたり、皮膚が赤くなるといった症状がでます。

Q 私はこの病気を聞いたことがあまりありませんが、歴史的に古くから認識されている疾患でしょうか。

A 19世紀の後半くらいから、ダニに刺された後、何か原因不明の神経症状を起こす病気があることは知られていたようです。これが病気としてわかってきたのはわりと新しく、1970年代にアメリカのコネティカット州のライム地方で、関節炎を主体とする病気として認識され、ライム病という名前がつけられました。

Q発見から50年ぐらい経過していますが、アメリカでの罹患状況はいかがでしょうか。

A アメリカでは、罹患者がとても多く、年間数万の単位で発生しています。日本ではそんなに多くなく、まだ認識が十分でないこともあるのかもしれませんが、年間数百人で、その大部分は北海道からの報告です。

Q 今のところはほとんどが北海道ですが、後々本州から南にくることは否定できないのですね。

A 今は北海道でも天候がだいぶ変わっていますし、人の流れも多いので、北海道以外のところで絶対に起こらないかといわれるとそうではなく、皆が分かっていなければいけない病気だとおもいます。

Q 原因不明の神経症状、関節炎、皮膚の紅斑などがあると、ライム病を頭に置いておかないと、誤診してしまうことになりますね。

A ダニに刺された後に関節が腫れたり、皮膚が赤くなったりするとリム病の可能性があると思います。

Q 気になるところは原因菌、伝播様式ですが、宿主はわかっているのでしょうか。

A 世界的にみると、ライム病を起こすような病原体は何種類か知られています。世界の地域によって違いがありますが、日本ではボレリア・ブルグドルフェリ菌、ボレリア・ガリニ菌が主体となっています。

Q スピロヘータはどうやってダニに入っていくのでしょうか。

A それはすごく不思議です。話は違いますが、蚊が病原体を運ぶ感染症があります。どういうわけが、蚊とウイルスには相性があり、どの病原体にはどの蚊といったつながりがあるようです。同じように、ダニであればなんでもいいわけではなく、たとえばイエダニにはライム病を起こす菌は入っていきません。病原体とダニという組み合わせには何か理由があるのだと思います。

Q 伝播様式はどのようなものでしょうか。

A  ヒトへは、ダニにかまれた部位から病原体が体内に入っていきます。48-72時間ぐらい、長い間刺されていないと人にうつらないので刺されたたなるべく早くダニをとることが大切です。基本的にはヒトからヒトへの伝播はしないといわれています。 先ほども申し上げましたが、特定のダニから感染するので、家庭内のダニに刺されたからといってライム病になるわけではありません。

Q 臨床症状、初期段階から感染のかなり最後まで、症状が変わっていくとうかがいましたが、どのように変化していくのでしょうか。

A 第一段階としてダニに刺されたら、最初は遊走性紅斑といって、ダニに刺されたところが赤くなり、それがだんだん広がっていきます。ダニに刺されてから最初の何日か、何週間かたった後に遊走性紅斑がでてきます。そのときに筋肉が痛くなったり、関節が痛くなったり、頭が痛くなったり、熱が出たり、倦怠感があったり、インフルエンザににたような症状を出すことがあります。

第二段階としては、数週間、数か月後に病原体が全身を回り、いろいろな症状がでてきます。皮膚症状に加え、神経の症状、髄膜炎のような症状、心臓で房室ブロック、伝導系がやられます。目の症状、関節が腫れるといった症状がでることもあります。大多数はそこで診断がつくと思いますが、そこで気がつかないと、数か月から数年すると非常に思い皮膚の症状、慢性の関節炎を起こすことがあります。

Q 時期によりすこしずつ変わってきて、皮膚から神経、関節に行ったりするのですね。

A はい。

Q 確かに、この多彩な症状を見ると、ライム病を知らないと混乱しますね。

A ダニに刺された後で皮膚と関節の症状があることを患者さんが自覚して話してくれたら、診断しやすくなります。しかし、患者さんが話してくれない、自覚があまりないとなると、診断には少し苦労すると思います。

Q 診断がついたら今度はどのように治療するのでしょうか。

A 48時間以内にダニを撮ると病原体は人にうつらないので、なるべく早くとる事が大切です。

ただ、自分で取ろうとしてダニの一部が皮膚に残ってしまうと、肉芽腫の原因になることがあるといわれています。皮膚科や専門医にとってもらう。あるいは、ダニをとるためのピンセットのようなもので、ダニを残さないように完全にとることが大切です。遊走性紅斑なdの症状がみられたら、ドキシサイクリン、アモキシシリンを14日間飲みます。

神経症状が見られたら、髄液への移行がいいといわれてりるセフトリアキソン、セフォタキシムを2-3週間投与することになります。

ただ一番大切なのはダニに刺されないことです。ライム病はダニに刺されなければ起こらないので、ダニのいそうな所へは行かないとか、白っぽい服装をして、ダニが服についたら、すぐわかるようにする、あるいは皮膚を出さないようにする、虫よけスプレーなどを十分にかける、外から帰ってきたら着替えをする、つまり、うちの中にダニを持ち込まないようにするという注意も必要だと思います。

Q 根本的なことですね。診断が難しい、誤診されて治療を受けられない場合も含め、どのような経過をとるのでしょうか。

 

A ほとんどの場合、抗生物質を内服します。ドキシサイクリン、アモキシシリンなどを2-4週間、内服すると治ると言われています。中には、治療が終わっても半年ぐらいずっと筋肉が痛い、関節が痛い、疲れるといった症状が続くこともあります。それは治療後のライム病症候群といわれています。普通は時間とともにそれも治っていくことが多いですが、時間がずいぶんかかる方も中にはいます。 運悪く診断がなかなかつかなくて、治療をうけられないことになると、感染の後期に非常に思い皮膚の症状や関節炎が続くことがあります。

Q 幸い診断がついてはやく治療をした場合、神経症状、髄膜症状、関節症状といったものは、きえてなくなるのでしょうか。

A 診断がついて抗生物質を飲むと、時間とともに大部分はなくなるといわれています。

Q ステージⅢに行く前に見つかり、治療を受ければ、何とか症状も回復するということですね。

A 早くみつけ、もし症状があるのだったら、抗菌薬を早く飲むことがすごく大切だと思います。

Q ありがとうございました。

感想 ダニにくっつかれていることに、案外気づきにくいようだ。 神経症状は、顔面神経、末しょう神経障害が多いらしい。
研修医の頃、鑑別診断に挙げられていたのを聞いたことがあるが、実際に見たことがない。一度見つけてみたいものだ。

ライム病検査-必要なとき、必要でない時