巨大な脾臓

あれは20年近く前、アルバイト先の外来診療が終わりかけの夕方だった。

20歳の女の子が腹痛を訴えているとのこと。

横になってもらい、お腹を出してもらった瞬間に、脾臓腫大がわかった。おへその下の方まで腫大して腹壁が左側だけ盛り上がっている。

大学で慢性骨髄性白血病のグループだったので、すぐに骨髄増殖性疾患(慢性骨髄性白血病、真性多血症、本態性血小板血症など)だと思った。

血算を調べると、やはり白血球や血小板が著増している。上司に連絡して受診の予定を立て、痛み止めを処方した。白血病を見つけたある種の興奮と、病気の深刻さに、複雑な感情になった。

 

20年前の慢性骨髄性白血病は、現在よりもっと恐ろしい病気だった。朝ドラ(スカーレット)で、ヒロインの息子がこの病気になる様子が描かれていた。インターフェロンに一定の効果があったが、数年のうちには急性転化がおき、そうなるとなすすべがなかった。

その後、チロシンキナーゼ阻害薬が出現し、劇的に予後が改善された。現代医学の勝利といってもよいだろう。現在では肺がんや乳がんやその他の癌にも分子標的治療薬が出現し、素晴らしい効果を示している。

慢性骨髄性白血病は、ほぼ単一で、病態が比較的シンプルだったのだろう。

治療は基礎科学の進歩から生まれた。やはり基礎科学が重要なのだ

Imatinib, The Magic Bullet for Treatment of Blood Cancer

Abstract
Some say it is a magic bullet. Others refer to it as a miracle. Imatinib is a drug used to treat a type of blood cancer. Today, patients who take imatinib survive an average of 30 years. This means that most of them can live as long as any other person. This is amazing! In the 1980s, a cancer patient could expect to live only 3–5 years. Imagine how devastating this was for the patient and the patient’s family! But how did we develop imatinib? Why is imatinib considered a miracle drug? And why is the story behind this drug so special? To answer these questions, we have to time travel to the past. This article describes the astonishing discovery of imatinib, the magic bullet for treatment of blood cancer, the efforts of the scientists behind this discovery, and what we have learned from the development of this drug.

あるものはそれを、魔法の弾丸と呼んだ。奇跡と呼ぶものもいた。イマチニブは血液癌のあるタイプに用いられる。イマチニブ服用者は平均30年生存する。これは、ほぼ寿命が短縮しないことを意味する。これは素晴らしいことである。80年代においては、この疾患に罹患したものは平均3-5年しか生存できなかった。