ビタミン発見物語 大航海の病ー壊血病とビタミンC-
月間保団連2019年3月号より
笠原 浩先生
・大航海時代の西欧では壊血病で死ぬ船員や水兵が続出していた。
・1753年、英国海軍のリンド軍医は新鮮な野菜や果物に「抗壊血病因子」が存在することを発見した。水兵たちはライムの生果汁で壊血病から逃れることができるようになったが、一般人への予防対策は遅れた。
・この「抗壊血病因子」は1920年にドラモントによって「ビタミンC」と命名された。その後に抽出・結晶化や化学構造の解明がなされ、アスコルビン酸として化学合成にも成功した。
歯肉などの粘膜や皮膚の出血からはじまり、やがて歯がぐらぐらになって抜け落ちる。手や足はむくんで腫れ上がり、消化管や尿路からも出血するようになる。倦怠感が強まり、創傷治癒能力や免疫力も減退する。筋力が低下してついには動けなくなり、そのまま死にいたる。
モルモットで動物実験に成功
19世紀に入ることには、柑橘類などに含まれる「抗壊血病因子」の研究に取り組む生化学者も現れた。「抗脚気因子」と同様に水溶性ではあるが、それほど安定ではなく、熱に弱いことや、抗酸化力が強いことなどはまもなく明らかになった。
しかしながら、その本体や作用キジョの解明を進めるための動物実験では失敗が続いた。イヌ、ネコ、ネズミなどは壊血病にならなかったからだ。1907年になってようやくノルウェーの科学者アクセル・ホルストがモルモットに壊血病を起こすことに成功した。多くの動物はからだの中で「抗壊血病因子」を作ることができる。食事から摂取しなければならないのは、ヒト、サルなどごく限られた動物だけであり、モルモットは霊長類以外で壊血病にかかる稀な動物だったのである。