書籍紹介 ケトン体が人類を救うー糖質制限でなぜ健康になるのか(光文社新書)

広島市医師会だより 平成30年10月号より引用

南区山城町(産業医) 吉岡 嘉暁

この本は、一見奇異な感じの題名であるが、内容は常識的でまじめな本である。著者は産婦人科医である。今まであまり人に本を勧めたことはないが、これは医療関係者だけでなく万人に読んでみてもらいたい本であると思い、筆をとった。この本は税抜きで920円の安価な新書版だが、大変分かりやすく読みやすい本である。著者自身の実測データや臨床経験に基づいて書いてあるので、読みながら大変説得力を感じた。

この本の表紙の説明書きによると、著者は昭和22年千葉県生まれで、北海道大学理学部地質学鉱物学科卒業後に民間会社に就職。その後医師を志し、昭和48年に帝京大学医学部に入学。卒業後は病院勤務を経て、地元県にてマタニティクリニックを開院し、糖尿病妊娠、妊娠糖尿病の糖質制限による管理で成果を上げているとある。これまでに新生児や胎児の臍帯血やじゅう毛のケトン体の濃度を多数測定し、その値が基準値の20-30倍にもなることを世界ではじめて報告。その意味について、赤ちゃんがブドウ糖ではなくケトン体をエネルギー源としているとし、さらにヒトは本来、ブドウ糖ではなくケトン体代謝によるエネルギーシステムを基本としていたことを暗示させるとしている。ヒトは約700万年前に類人猿の祖先と分かれ、農耕が始まったのが約1万年前と考えられていることからすると、ヒトは進化に要した時間の大部分を狩猟・採集生活のまさに糖質制限で生き抜いてきたことになると述べている。ヒトは氷河期をも穀物なしで生き抜いてきたことを考えると、糖質制限食も人類にはなじみやすいのかもと思えてくる。

私事であるが、私が糖尿病に関心を抱いたのは、私自身が糖尿病の患者になったからである。最初に糖尿病と診断されたのは、私が保健所長をしていた50歳代後半の頃である。職場の健診で尿糖4+で急きょ連絡があり病院受診を勧められた。県病院を受診して検査を受けるとHbA1cが11.6であった。入院を勧められたが断り、自分で食事療法のみで対処することにした。糖尿病学会の食品交換表の本を買って勉強し、かなり厳密に食事療法を実行した。10ヶ月でHbA1cが正常範囲に戻った。2年くらい食事療法を続けたが、職場健診で正常値が続いたのでいつしか普通の食事にもどっていた。それから7年くらいして、今度はかかりつけの診療所から緊急の電話がかかってきた。HbA1cが11.7とのこと。その頃たまたま本屋で糖質制限の本を見かけた。今度はこれでやってみようと思い、すぐに取り組んだ。3ヵ月後に5.2まで下がった。それから数年して糖質制限も緩やかになり、70歳の現在では7.0近くまで上がっている。お迎えも近い年齢になって気も緩んだせいか、時々は糖質制限をはずしてお好み焼きやお酒もたしなんでいるこの頃である。

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