貨幣の発明

エリック・ホッファー自伝より引用

 金がなくなるまでの2週間余り、人生は御伽噺のように思えた。貨幣の発明の重大さを悟ったのである。それは人間性の進歩、つまり自由と平等の出現にとって欠かせない一歩である。貨幣のない社会では、権力だけが統治の道具としてものを言うので選択の自由が存在しないし、粗暴な力は分配不能なので平等も存在しない。しかし他方で、貨幣の力は強制力なしでもコントロールできるのである。

弱い少数派であるユダヤ人や、銀行取引が発達するなかで、いまだ封建君主の支配下に置かれていた商人階級が果たした役割を考えると、どうも貨幣は弱者が発明したもののように思われる。絶対権力者はつねに金を嫌悪してきた。人々が高邁な理想によって動機付けられることを期待し、自分の支配を維持するために結局、恐怖に訴える。貨幣が支配的役割を果たさなくなったとき、自動的な進歩は終わりを告げる。貨幣の崩壊は文明の崩壊の予兆である。金と利潤の追求は、取るに足りない卑しいことのように思われがちだが、高邁な理想によってのみ人々が行動し奮闘する場所では、日常生活は貧しく困難なものになるだろう。

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