悩んだら動け

国立大学卒の30代勤務医

悩んだら動け

同僚や後輩に「苦い思い出はあるか」と聞かれたら、この経験を話すと思う。医師とはそういう仕事だということを、お互いに再確認するために。
何年前になるだろうか、50歳代の女性が意識障害、片麻痺で夜間救急に搬送されてきた。この病院は大学の関連病院で、私はまだ初期研修が終わったばかりの新米だったが、この日は神経内科に1人で当直していた。この病院は各科で1人ずつ当直する決まり。正直、不安ばかりの毎日だった。
意識障害なので頭蓋内疾患をまず考えCT、МRI拡散強調画像で皮質にやや淡い高信号が認められ、「脳梗塞だ」と考えた。そこで抗血栓療法を行ったところまではよく覚えている。看護師が「先生、血圧が高いですけれど、いいですか?」と聞いてきたが、急性期の血圧はあまり下げない。「そのままで」と指示したと思う。
しかし、その直後、意識障害が急速に進行し、jcsが300に。脳出血を起していた。「どうして?」そこでやっと脳神経外科にコンサルトすると「脳動脈瘤があるけど・・・・」。結局、患者は翌日に亡くなった。
思い出すと今でもしんどい。もし動脈瘤を見落とさず、血圧をさげていたら患者は亡くなることはなかったかもしれない。もっと様々な可能性を考えておくべきだった。実際、МRI画像を見たとき、脳梗塞としては違和感を覚えていた。後日、DWIの高信号は脳梗塞ではなく痙攣によるものだったのではないかという結論になった。未熟だった。勉強不足だ。今でも色々なことが頭をよぎる。
それにも増して悔やむのは、違和感を覚えた時、他の医師に相談もできたはずなのに、それに躊躇したことだ。大きな病院で、他科へのコンサルトのハードルが高いと勝手に感じていた。しかし、それで不利益を被るのは患者だ。何か違和感を覚えたり、自分の診療に不安があるのだったら誰かにためらわずに聞くべきだった。
悩んだら動け。我々はそういう仕事をしているのだ。

日経メディカル 2018年11月号より