悪玉コレステロール値が治療目標に達していても、冠動脈疾患が発症するわけ

尊敬する河越卓司先生の論文

疾患別検査ガイドQ&A 広島市医師会臨床検査センター 令和5年11月14日発刊より

Q4 LDLコレステロールには、超悪玉コレステロールであるsmall dense LDLコレステロール(sd LDL-C)が含まれており、単純にLDL-C高値だけでスタチンなどの薬物治療に踏み切るかどうか迷うことがあります。

中性脂肪(TG)が高値であれば、sd LDL-Cも高いと推測しますが、保険収載されていない、sd LDL-Cを測定することで治療戦略を検討するという方針に関してご教示ください。

A4 冠動脈性心疾患を高頻度で発症するメタボリック症候群や2型糖尿病ではLDL-Cの上昇は比較的軽微で、むしろTGの上昇のほうがLDL-Cの上昇より著明です。こういった点からみると、LDL-Cの増加が著明でなくてもLDL-Cを分割してみていくと、粒子サイズが小型のLDL-Cがメタボリックシンドロームや2型糖尿病で著明に増加しております。小型で密度の高いLDL-Cをsd LDL-Cと称し、高TG血症ではこのsd LDL-Cの濃度が増加しています。

またsd LDL-Cは正常サイズのLDL-Cに比べて、LDLレセプターに対する結合組織親和性が低下しています。LDLレセプターは主に肝に存在しますが、レセプターの低親和性のためsd LDL-Cは肝より末梢で代謝されやすくなります。そのため血中滞在時間は正常サイズのLDL-Cが2日なのに対して、sd LDL-Cは5日と大幅に延長しています。またsd LDL-Cは小型で血管内皮下への侵入が容易で、血管内比と接触する時間が延長し、活性酸素によって酸化されやすく、酸化LDLとしてマクロファージに取り込まれ、プラーク形成につながります。

いくつかのコホート研究の中で、わが国の吹田研究においてsd LDL-Cの増加は冠動脈疾患の有意な危険因子であることが同定されております。また米国のARIC試験においてもsd LCL-C濃度は冠動脈疾患発症リスクと強く関連性を示し、LDL-C値100㎎/㎗以下でもsd LDL-Cが高値であれば冠動脈疾患の発症が増大することが明瞭に示されています。以上の点から、sd LDL-Cは冠動脈疾患の鋭敏なリスクマーカーと言えます。

従来のLDL-Cを目標にした診断・治療ではこの危険なLDL分画が見逃され、高リスクとは判断されずに見過ごされています。そのためLDL-Cが治療目標に達していても、イベントが発症するわけです。従ってsd LDL-Cを測定し治療戦略を検討するは非常に有用と思います。ただ現時点ではsd LDL‐CはLDL-Cほどデータの集積および解析が十分とはいえず、測定方法についてもいくつかの問題点が残されています。今後それらの問題点が克服され、sd LDL-Cが臨床の現場で容易に測定され、冠動脈疾患の敏感なリスクマーカーとして診断・治療に利用されることを期待しています。