心不全と貧血
日本臨床内科医会会誌(令和5年9月号)より
心不全と貧血~鉄欠乏との関係を中心に~
章平クリニック 湯浅 章平 先生
心不全と貧血
貧血の存在は、細胞・組織の低酸素化を招く、そのような状況下で、心臓は対照的に心拍数を増大させ、酸素を増やそうとするが、やがて過度な心負荷に陥り心不全は増悪する。したがって、貧血の是正は心不全を管理するうえで重要な要素となりうる。
併存疾患としての貧血の頻度
貧血は心不全患者の最も多い併存疾患である。心不全入院患者の、長期転機に及ぼす貧血の影響を評価した J care-card研究では、全登録患者の約57%が貧血を合併していた。(Circ J 2009; 73: 1901-08). また、貧血を有する慢性心不全患者の予後への影響を調べたCHART=2研究では、35%の患者に貧血が見られた。(Circ J 2015; 79:1984-93).
心不全患者における貧血の原因
体液貯留による血液の希釈、慢性腎臓病によるエリスロポエチン産生低下、炎症性サイトカイン活性化による、骨髄造血能の低下と鉄欠乏、アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬による骨髄抑制、胃腸の浮腫による鉄、ビタミンb12の吸収障害など多岐にわたる。
心不全と鉄欠乏
心不全患者には鉄欠乏が多くみられる。心不全などの慢性炎症に伴う貧血(anemia of chronic disorder :ACD) の場合、鉄代謝を抑制するヘプシジンの産生亢進により、体内の鉄貯蔵量は低下していないにも関わらず、鉄吸収や再利用が抑制され、血清鉄が減少し鉄欠乏をきたす。
鉄欠乏の治療とその効果
鉄欠乏に対し、鉄剤を補充することは理にかなっている。ただし、心不全患者は鉄の吸収能が低下しているため、経口摂取の効果は乏しい。注射用鉄剤についてのエビデンスで代表的なものに、FAIR-HF trialがある(N Engl J Med 2009: 361 2436-48). 鉄欠乏がみられるへもぐろピン 9.5-13.5㎎/dlの心不全患者に、カルボキシマルトース第二鉄を使用したところ生命予後に影響はなかった。しかし、症状や6分間歩行距離などQOLの改善を認めた。また、注射用鉄剤デルイソマルトース第二鉄を用いたiIRONーMAN研究(LANCET 2022: 400: 2199-2209)では、主要評価項目である心不全による入院/心血管死に差はつかなかったものの、新型コロナウイルス感染症の影響を調整した感度分析や順次評価項目(心血管死、脳梗塞、心筋梗塞、心不全による入院)では、通常治療群と比べ優位差がついた(それぞれp=0.047. P=0.045).本研究から、鉄欠乏を有する心不全患者への鉄剤の補充は、心不全による入院、予後の改善につながる可能性が示された。心不全患者の鉄欠乏を補正する際には、フェリチンやトランスフェリン飽和度を参考に、慎重に行うことが肝要である。
コメント:注射の鉄はあまりお勧めできない気がします。