ピリドキシン(B6)、ビオチン(B7)の発見

月間保団連 2019年6月号 笠原 浩 ビタミン発見物語より引用

 

ビタミンB6

クーンとともにリボフラビン(ビタミンB2)の同定を成し遂げたハンガリー人医師ジェルジーは、ナチスの脅威を感じてハイデルベルヒ大学から英国ホプキンス研究所に移り、動物実験を続けていた。1934年、彼はビタミンB欠乏食にB1を加えた飼料でラットに生じた皮膚炎が、リボフラビンでは治癒しないが、酵母エキス中の他の成分で軽快することを見いだし、その因子をビタミンB6と呼ぶことにした。

1938年にはジェルジーをはじめ多くの研究者から結晶分離と化学構造決定の成功が報告され、化学名はピリドキシンと命名された。

生体内ではアミノ酸の合成から分解までのほぼすべての代謝や神経伝達に関与し、健康な皮膚や髪、歯などを作ることに役立つとされている。ヒトでは腸内細菌によって供給されることもあり、ビタミンB6の欠乏はまれであるが、その拮抗物質を含むギンナンの多食(銀杏中毒)、抗結核剤イソニアジドやある種の抗うつ剤の連用者などでは、口内炎やけいれんなどの症状をみることがある。中華料理症候群(グルタミン酸ナトリウムの過剰摂取?)の予防や治療に有効だったという報告もある。

ビオチン(ビタミンB7)の発見

1935年にアメリカに移住したジェルジーは、大量の卵白を与えられたラットが発病する皮膚炎などの卵白障害症候群について研究し、これに有効な微量栄養素を発見した。彼は構造決定にも成功し、この物質がビタミンB複合体に属する水溶性ビタミンであったので、ビタミンB7と呼ぼうとしたが、すでにユトレヒト大学の化学者フリッツ・ケーグルが卵黄中から同じ物質を分離し、酵母の増殖に必要な因子(bios)ということでビオチンと命名していたので、これが一般名となった。

アトピー性皮膚炎、湿疹、掌蹠膿疱症などの治療に効果があったとの報告もあり、美肌、髪や爪の健康などに関心がある人に人気があるサプリメントとなっている。