2019年糖尿病診療ガイドライン(糖尿病学会)解説
メディカルトリビューン誌 2020年1月23日号より
荒木栄一氏(ガイドライン策定委員会委員長、熊本大学大学院代謝内科学教授)
部分引用
食事療法 総エネルギー摂取量の算定方法を変更
今回の改定では、食事療法に関する議論が最も白熱したという。焦点となったのは、総エネルギー摂取量の算定方法だ。
2016年版においては、標準体重(㎏)に3段階で設定した身体活動量を乗じた値を総エネルギー摂取量の推奨値としており、標準体重は身長(m)に一律に22を乗じた値としていた。その主な根拠は、BMIがおよそ22の場合に健診での異常所見が男女とも最も少ないとの、30-59歳の日本人を対象にした30年近く前の研究である。
しかし近年、人口の高齢化とともに理想的なBMIの幅が広くなっている。アジア人では死亡率が最も低いBMIは年齢により異なり、20-25の範囲にあることが報告されている。死亡率の点から至適なBMIは、高齢者では若年者より上昇する傾向にある。
このような背景から、2019年版では目標体重(2016年版の標準体重に相当)算出の係数を一律に22ではなく、年齢により3段階に設定された。
目標体重に乗じるエネルギー係数(2016年版の身体活動量に相当)の設定も変更された。係数自体は変わっていないが、捜査の定義が変わっており、同じレベルの労作なら2016年版に比べ、より高い係数が適用されるケースもあり、その場合はより多い総エネルギー摂取量が算出される。継続可能な食事療法という観点からの措置だという。
荒木氏は「目標体重はガイドラインの指針を参考にしながら、個々の患者に応じて設定してもらいたい。特に高齢者に過度のエネルギー制限を強いるとサルコペニアやフレイルの誘因となるので、高齢になるほど個別化対応が必要となる」と指摘する。
一方、栄養素摂取比率の推奨値は明確なエビデンスがないためステートメントから削除され、個別化対応が推奨された。ただし、解説文の中では、「炭水化物:50-60%エネルギー、たんぱく質:20%エネルギー、残りを脂質」とする2013年の「日本糖尿病学会の食事療法に関する提言」は「一定の目安としてよい」と記述された。
糖質制限食については、これまでの研究では糖尿病管理に及ぼす影響が一貫しておらず、長期的な安全性が確認されていないとして、現時点での推奨は見送られた。
これまでの栄養指導の問題点が認識されている。
・カロリー制限で低たんぱく血症になる。これがサルコペニアの原因になる。
・PFCバランス(タンパク質、脂質、炭水化物のバランス)の適切な数字はエビデンスがない。
・糖質制限は、長期的安全性が不明。
少しづつ、方向転換していると感じました。