ビタミンEにより治療効果が得られた急性妊娠性脂肪肝の1例
広島医学 71巻11号(2018年11月)より
以下引用(トコフェロールニコチン酸エステルはユベラ)
急性妊娠脂肪肝の原因は不明であるが、電子顕微鏡像で肝細胞内のミトコンドリアの腫大と変形がみられることから、ミトコンドリアの代謝異常、Free fatty acidのベータ酸化障害が病態に関与していると考えられている。
一方、NASH(非アルコール性脂肪肝)の治療で有用性が認められている薬剤はビタミンEおよびインスリン抵抗性改善薬のチアゾリン系薬剤である。NASH患者ではreactive oxygen species(ROS)によって生じる脂質過酸化のマーカーが増加していることから、NASHの病態進展に酸化ストレスが関与していることが推測されている。Vitamin Eは、NASH進展にかかわるフリーラジカルに対して拮抗的に働き、抗酸化ストレス剤として作用する。糖尿病を有しないNASH患者を対象とした無作為比較試験(Randamized controlled trial)で、VitaminE群ではプラセボ群と比べてAST, ALT値が低下し、脂肪沈着の改善が認められ、糖尿病非合併NASHでのVitamin E製剤の有効性が証明された。また、この大規模RCTでは、チアゾリン系薬剤はVitaminEに対する優位性は示されていない。現在、NASHに対しては抗酸化ストレス剤であるVitaminEが糖尿病非合併NASH症例に対しては第1選択とされている。
本症例でも分娩後に高度肝障害、脂肪肝を認め、糖尿病は合併していないことからVitaminE投与を選択した。VitaminE治療経過中、腹部超音波検査で早期に肝脂肪沈着の著明な改善が認められ、それに伴い肝障害の改善を認めた。VitaminEのミトコンドリアの代謝改善作用、抗酸化作用が急性妊娠脂肪肝のミトコンドリア異常の改善、脂肪肝の改善に関与したと推測した。
本症例ではVitaminE製剤として当初トコフェロール酢酸エステル150mg/日を投与したが、肝機能の改善が認められなかったことからトコフェロールニコチン酸エステル600mg/日に変更した。NASHに対する治験ではトコフェロール酢酸エステル(800IU、340mgあるいは300mg)が投与されている。