渋沢の遅い立志

 

自白すれば、余の志は青年期において、しばしば動いた。最後に実業界に身を立てようと志したのがようやく明治4,5年頃のことで、今日より追想すれば、この時が世にとっての真の立志である。元来自己の性質才能から考えてみても、政界に身を投じようなどとは、むしろ短所に向かって突進するようなものだと、この時ようやくきがついたのである。それと同時に感じたことは、欧米諸邦が当時のごとき隆昌をを致したのは、全く商士業の発達している所以である。日本も現状のままを維持するだけでは、いつか世か彼らと比肩しうるの時代が来よう。国家のために商工業の発達を図りたい、という考えが起こって、ここに初めて実業界の人になろうとの決心がついたのであった。しかしてこの時の立志が、後の40余年を一貫して変ぜずに来たのであるから、余にとっての立志はこの時であったのだ。

コメント: 渋沢は1840年生まれなので、31-32歳で立志したことになる。(その前の大望は、武士になること、政治家として国を動かすことであった。)

どこに自分の志をもつべきか、そしてそれが自分に向いているかなど、簡単にわからないものだと思う。

 

政治は大切だが、渋沢が政治の世界で頑張ってもこのような偉人にはならなかっただろう。

何歳であっても、正しい方向性が見えていることが大切ですね。