高齢者の腹痛診療で注意すること・・・高齢者では軽症に見え、若年者では重症に見える

臨床と研究・93巻4号(平成28年4月) 腹痛   光岡雅文 田妻 進著   より引用

 

①50歳以上と50歳以下で比較した報告では、高齢者では虫垂炎が少なく、胆嚢炎、腸閉塞、憩室炎などが多い。

②高齢者の緊急手術例430例の調査では、胆嚢炎(32.3%)、ヘルニア(13.9%)、下部消化管穿孔(12%)、虫垂炎(10.7%)、癒着性腸閉塞(6%)、憩室炎(5.1%)、腸管虚血(0.9%)であり、30日後の死亡率は14.3%であったと報告されている。

③高齢者の診断困難な理由

(1)病歴聴取が困難である。

・認知能力、記銘力、聴力などのコミュニュケーション能力の低下

・発熱や電解質異常などによって意識レベルの低下

(2)臨床評価:症状や所見が非典型的で軽症に見える

・疼痛閾値の上昇

・生体反応が低下:発熱時に頻脈が見られない、低体温になることもある。

・白血球の増多や左方移動に乏しい。

(3)腹腔外疾患や悪性腫瘍の頻度が多い:心筋梗塞や大動脈疾患のような心血管疾患や肺炎、副腎不全、帯状疱疹などが原因のこともある。また、大腸がんや胃がんなどの罹患率が高い。

(4)社会的要因の影響を受けやすい:独居や施設入所中のためなど

(5)基礎疾患や薬物の影響:糖尿病、精神疾患など併存疾患や鎮痛剤、ステロイドなどの影響を受けて症状、所見がマスクされやすい。

ポイント!!

・あらゆる手段を用いて病歴聴取を行う。家族・かかりつけ医に確認する。

・はっきりしない症状。「いつもと様子が違う」は要注意である。

非典型的な症状を示すことが典型的である。

重症感のない症候がしばしば誤診を招く

・加齢でおこる生理的な変化を覚えておく。

高齢者では、より多くの検査を必要とする

腹膜刺激兆候がない、検査値が正常であることは、器質的疾患がないことではない

・オッズ:確率を知っておく。急性腹症の高齢者では胆道疾患は5人に1人くらいいる。

・急いで自宅へ帰さない。