亜鉛含有製剤による銅欠乏性貧血

長期の亜鉛補充は銅欠乏症を引き起こす可能性があります

ちなみに、銅欠乏性貧血ではMDSの鉄芽球性貧血の所見となる。ビタミンb12欠乏症のような神経症状をきたすこともあるらしい。

銅欠乏の症状と診断

血液学的異常

①貧血と白血球減少(血小板減少はまれ)

②小球性、正球性、大球性いずれもありうる。

③骨髄検査でMDS様。環状鉄芽球を認める。

亜鉛含有製剤による銅欠乏性貧血

亜鉛製剤ポラプレジンクの長期投与が原因の銅欠乏による、貧血および汎血球減少の症例が報告されました。銅が欠乏すると骨髄で正常に血液が作られなくなります。このような銅欠乏性貧血は当モニターには1件だけ報告されていますが、日本静脈経腸栄養学会には、2006年の石川・城北病院の大野健次医師らの報告が契機となり、以降、毎年のように報告されています。確実に防ぎたい副作用のひとつです。

症例)90歳代後半女性。体重48㎏。手術歴なし。訪問診療で胃ろうによる経管栄養管理。ポラプレジンク150㎎/日の11カ月間投与後、貧血精査目的で入
院。併用薬はエンシュアH250ml、エン
シュアリキッド500ml、クエン酸第一鉄
50㎎、他8種。
入院時:白血球数(WBC)2800個/μL、血清ヘモグロビン値(Hb)5.5g/dl。
入院5日目:血清亜鉛64μg/dl(基準値
66~118)、血清銅9μg/dl(基準値78~
131)、フェリチン1655.2ng/ml。銅欠乏とフェリチン高値のためポラプレジンクとクエン酸第一鉄を中止。銅の補給目的で栄養剤のアルジネートウォーターを開始、入院12日目に在宅療養復帰を考慮しココア10g/日に変更。
入院28日目:WBC5600個/μL、Hb8.2g/
dl、血清亜鉛53μg/dl、血清銅17μg/dl、フェリチン655.5ng/mlを確認。
亜鉛と銅は、2価のイオンの状態で小腸での吸収過程で競合します。銅については、胃上部から1価イオンの状態で吸収できるルートもあります。このため、胃上部切除や腸ろうの場合に亜鉛だけを投与すると、亜鉛の過剰投与ではなくても銅欠乏になる危険が高まります。
厚生労働省『日本人の食事摂取基準2015年版』によると、亜鉛の推奨1日摂取量(成人)は、男性10㎎、女性8㎎です。ポラプレジンク製剤75㎎には17㎎の亜鉛が、エンシュアリキッド1缶には3.75㎎の亜鉛が含まれています。
亜鉛含有製剤開始後は3カ月ごとを目安に血清銅をチェックしましょう。銅の補給には1g中27.6μgの銅を含むメサフィリン配合散を使うと効率的です。ちなみに、純ココア10g中、銅を約300μg、亜鉛を約700μg含みます。

(民医連新聞 第1675号 2018年9月3日)