MENU

パキロビッドはCOVID-19後遺症を減らさない

日経メディカルの記事より
2023/11/21
大西 淳子=医学ジャーナリスト

 米国Washington大学のGeorge N. Ioannou氏らは、退役軍人局の医療データベースを利用して新型コロナウイルス感染症(COVID-19)外来患者の後遺症リスクを調べる研究を行い、ニルマトレルビル・リトナビルを投与された患者と条件がマッチする未治療の対照群を比較して、31種類の後遺症の中でニルマトレルビル・リトナビル群のリスクが有意に低かったのは血栓塞栓症イベントのみだったと報告した。結果は2023年10月31日のAnn Intern Med誌電子版に掲載された。

COVID-19急性期後の患者には様々な後遺症が見られている。米国疾病対策センター(CDC)が行った研究では、18~64歳のCOVID-19サバイバーの5人に1人と、65歳以上のサバイバーの4人に1人が、後遺症とおぼしき症状を経験していた。急性期に経口抗ウイルス薬を用いることにより、重症化リスクを減らせることは臨床試験で報告されているが、後遺症の発生も予防できるかは明らかではなかった。

そこで著者らは、外来でニルマトレルビル・リトナビルを投与された患者を対象に、観察研究のデータを利用してランダム化比較試験を模倣した分析を行うTarget Trial Emulationを後ろ向きに行って、この薬の後遺症予防効果を検討することにした。

 米国の退役軍人の電子健康記録から、2022年1月1日から7月31日に(主流がオミクロン株の時期)、PCR検査または抗原検査により初めて新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)陽性判定を受け、COVID-19重症化の危険因子はあるが、入院しなかった18歳以上の患者を選び出した。この中から急性期にニルマトレルビル・リトナビルを投与された患者と、未治療の患者を選んで後遺症リスクを比較する候補群とした。ニルマトルビル・リトナビルの禁忌に該当する患者、入院した患者や死亡患者、過去にCOVID-19治療歴のある患者、ニルマトレルビル・リトナビル以外の薬物療法が実施された患者は候補から除外した。

候補者が初めてSARS-CoV-2が陽性と判定された日から、5回の入れ子式マッチングを行って、介入群と対照群を選び出した。最初は、0~1日目にニルマトルビル・リトナビル治療を開始した患者と未治療の患者でマッチングを実施した。次に2日目に治療を開始した患者と2日目まで未治療の患者で、さらに3日目に治療を開始した患者と3日目まで未治療の患者、4日目に治療を開始した患者と4日目まで未治療の患者、5日目に治療を開始した患者と5日目まで未治療の患者を対象にマッチングを繰り返した。

傾向スコアを用いてマッチさせた条件は、年代、性別、人種/民族、地域(西部、中西部、南部、北東部)、陽性の判定月、地域の貧困指数、ワクチン接種状況、喫煙、薬物使用障害、基礎疾患、使用薬など。

治療開始日から30日後までを急性期と規定し、31日後から180日後の後遺症累積発症率を調べた。追跡は2023年1月31日まで継続した。対象は以下の10の臓器系に分類される31種類の後遺症。心血管系(急性冠症候群、不整脈、心血管系疾患、胸痛、心不全と心筋症、高血圧、心筋炎と心膜炎)、呼吸器系(呼吸器症状、喘息、COPDと気胸)、腎臓(急性または慢性の腎障害と透析)、消化器系(消化器症状、消化器疾患)、神経系(脳血管疾患、自立神経障害、認知症、嗅覚味覚障害、頭痛、睡眠障害)、筋骨格系(筋痛と筋炎)、内分泌系(糖尿病)、精神症状(抑うつ、気分障害、不安、PTSD、薬物関連障害)、血栓症(静脈血栓塞栓症、肺塞栓)、全身症状(倦怠感と疲労、ウイルス後疲労症候群、勃起不全)。陰性コントロールとして癌の累積発症率も比較した。

期間中に初めてSARS-CoV-2陽性判定を受け、条件を満たした患者は19万1057人いた。このうち1万552人がニルマトレルビル・リトナビルの治療を受け、14万3441人が未治療だった。候補者の中から、30日後まで生存しており、条件がマッチした9593ペアを分析対象とした。年齢の中央値は66歳で、86%が男性であり、17.5%はワクチン未接種者だった。両群のベースラインの患者特性のバランスは良好だった。

ニルマトレルビル・リトナビル群の患者にこの薬剤が投与されたタイミングは、93.2%が検査陽性から0日または1日目で、4.5%が2日目だった。

31種類の後遺症のほとんどについて、累積発症率に有意差は見られなかった。例外は、静脈血栓塞栓症と肺塞栓を合わせたイベントリスクがニルマトレルビル・リトナビル群で低かったことで、サブハザード比は0.65(95%信頼区間0.44-0.97)、累積発症率差は-0.29パーセンテージポイント(-0.52から-0.05ポイント)だった。ただし、2つのイベントを区別すると、静脈血栓塞栓症のサブハザード比は0.73(0.43-1.23)、肺塞栓は0.62(0.35-1.12)で有意差は見られなくなった。陰性コントロールとした癌のサブハザード比は0.97(0.78-1.20)だった。

これらの結果から著者らは、31種類の後遺症のうち、ニルマトレルビル・リトナビル投与群にリスク低下が見られたのは血栓塞栓複合イベントのみだったと結論している。この研究は米国退役軍人局の支援を受けている。

原題は「Effectiveness of Nirmatrelvir-Ritonavir Against the Development of Post-COVID-19 Conditions Among U.S. Veterans A Target Trial Emulation」、概要はAnn Intern Med誌のウェブサイトで閲覧できる。

PAGE TOP