カルシウム拮抗薬が緑内障リスクを増やす可能性…JAMA論文より

私が研修医になる前から使用されているカルシウム拮抗薬は、比較的安全性が高いと思われている。今頃になって、このような報告が出てくるのだ。

 

カルシウム拮抗薬が緑内障リスクを増やす可能性

これらの結果から著者らは、Ca拮抗薬の使用者は緑内障のリスクが有意に高く、Ca拮抗薬は緑内障に関連する構造的な変化であるmGCPLとmRNFLの菲薄化とも関係していた。一方で、Ca拮抗薬とIOPの間に有意な関係が見られないことは、Ca拮抗薬が眼圧亢進とは別の機序を通じて緑内障性の神経変性を引き起こすことが示唆されたと結論している。そのため、最適な眼科治療を行っても緑内障が進行する患者は、Ca拮抗薬の投与を中止し、別の薬剤への切り替えを検討した方が良いだろうと述べている

英国University College London Institute of OphthalmologyのAlan Kastner氏らは、UK Biobankの参加者を対象として、カルシウム拮抗薬(Ca拮抗薬)の使用と緑内障の関係について検討し、Ca拮抗薬が眼圧上昇とは異なるメカニズムで、緑内障リスクの増加に関連することが示唆されたと報告した。結果は2023年9月7日のJAMA Ophthalmology誌電子版に掲載された。

英国では高血圧患者の最高40%にCa拮抗薬が処方されている。開放隅角緑内障の進行に関連する全身治療薬を調べた米国の探索的研究で、Ca拮抗薬とセロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が、緑内障のリスクを増加する可能性が示唆されていた。しかし、この研究では併存疾患などの交絡因子を補正できていなかった。そこで著者らは、人口統計学的データや併存疾患などが明らかなUK Biobankのデータを利用してCa拮抗薬の使用と緑内障の関連について検討し、Ca拮抗薬が眼圧の変化に影響するかも調べることにした。

対象は2006~2010年にUK Biobankに参加した37~73歳の人で、緑内障診断の有無、眼圧、光干渉断層撮影(OCT)に基づく網膜内層厚などのデータがそろっていた人だ。UK Biobank参加者に対する眼科検査は、2009~2010年に開始された。検査の中で、角膜厚の影響を排除した補正眼圧(IOP)とOCTに基づく網膜内層厚のパラメーター(黄斑部網膜神経線維層;mRNFLの厚みと、黄斑部の網膜神経節細胞-内網状層;mGCIPLの厚み)という緑内障関連の転帰を分析に用いた。

ベースラインの調査時点でCa拮抗薬(ジヒドロピリジン系、フェニルアルキルアミン系、ベンゾチアゼピン系、その他)の使用を自己申告した患者に対して、訓練を受けた看護師が面談し、使用を確認した。

緑内障症例は、UK Biobankに参加する1年前から1年後までの期間に、原発性開放隅角緑内障(POAG)または不特定の緑内障と診断されていた人とした。交絡因子候補として、人口統計学的要因、ライフスタイル要因、全身的な健康状態を示す変数などの情報を得た。

主要評価項目は、緑内障の有無、IOP、OCTに基づく網膜内層厚のパラメーター2つ(mRNFLとmGCIPLの厚み)に設定した。

緑内障の有無に関する情報が得られた42万7480人の成人を分析対象にした。年齢の中央値は58歳(四分位範囲50-63)で、54.1%が女性だった。IOPに関する情報は9万7100人、OCTに由来するパラメーターのうちのmRNFL厚は4万583人、mGCIPL厚は4万486人から得られた。

11万4311人(26.7%)が医師に高血圧と診断されており、3万3175人(7.8%)がCa拮抗薬使用者だった。Ca拮抗薬使用者のうちの89.0%は高血圧で、11.0%は高血圧ではなかった。

Ca拮抗薬非使用者に比べCa拮抗薬使用者は、高齢で、男性が多く、黒人が多く、学齢が低く、Townsendの剥奪指数が高く、高血圧、糖尿病が多く、BMIが高く、総コレステロール値は低かった。また、Ca拮抗薬使用者では、緑内障の有病率は高く、平均眼圧は高く、mGCIPLとmRNFLの厚みは薄かった。

社会人口学的特性、医療歴、人体計測値、ライフスタイル要因を調整すると、降圧薬の使用は緑内障のリスク増加と関連が見られた。調整オッズ比は1.29(95%信頼区間1.10-1.52)だった。同様にCa拮抗薬使用者の緑内障のオッズ比は1.39(1.14-1.69)と有意に高かった。しかし、Ca拮抗薬以外の降圧薬は緑内障との間に有意な関係を示さなかった。利尿薬のオッズ比は1.03(0.84-1.28)、RAS阻害薬は1.12(0.93-1.34)、β遮断薬は0.93(0.74-1.18)だった。調整に収縮期血圧と降圧薬の併用を追加しても結果は同様だった。

Ca拮抗薬の使用は、mGCIPL厚が薄いこと(-0.34μm:95%信頼区間-0.54から-0.15μm)、およびmRNFL厚が薄いこと(-0.16μm:-0.30から-0.02μm)と関連が見られたが、IOPとの関係は有意ではかった(-0.01mmHg:-0.09から0.07mmHg)。

Ca拮抗薬使用者の88.4%がジヒドロピリジン系(アムロジピンなど)を使用しており、9.1%がベンゾチアゼピン系(ジルチアゼムなど)、2.9%がフェニルアルキルアミン系(ベラパミルなど)を使用していた。ジヒドロピリジン系使用者に限定して分析しても、上述した結果と同様になった。ベンゾチアゼピン系使用者では、緑内障のオッズ比は1.80(1.14-2.86)で、IOPは有意に低かった(-0.51mmHg:-0.77から-0.24mmHg)が、mGCIPL厚または mRNFLL厚との関係は有意にならなかった。フェニルアルキルアミン系使用者については、いずれも有意差は見られなかった。

これらの結果から著者らは、Ca拮抗薬の使用者は緑内障のリスクが有意に高く、Ca拮抗薬は緑内障に関連する構造的な変化であるmGCPLとmRNFLの菲薄化とも関係していた。一方で、Ca拮抗薬とIOPの間に有意な関係が見られないことは、Ca拮抗薬が眼圧亢進とは別の機序を通じて緑内障性の神経変性を引き起こすことが示唆されたと結論している。そのため、最適な眼科治療を行っても緑内障が進行する患者は、Ca拮抗薬の投与を中止し、別の薬剤への切り替えを検討した方が良いだろうと述べている。この研究はUniversity College London UCL OverseasResearch Scholarshipなどの支援を受けている。

原題は「Calcium Channel Blocker Use and Associated Glaucoma and Related Traits Among UK Biobank Participants」、概要はJAMA Ophthalmology誌のウェブサイトで閲覧できる。