遺伝性・先天性疾患と気管支拡張症

日本内科学会雑誌 2025年6月号より

気管支拡張症に関連する遺伝性・先天性疾患として、日本では原発性絨毛運動不全症(PCD)と原発性免疫不全症候群が特に重要である。原発性絨毛運動不全症においては、日本と韓国に特有のバリアントが同定されており、国ごとに遺伝的背景が大きく異なることが明らかになった。未診断の成人症例も多いと考えられており、我が国における診断体制の確立と治療法の開発に向けた国際的な協力が重要である。

PCDについて 多くは常染色体潜在遺伝形式を示し、本邦では、1-2万人に一人の罹患とされる。

小児では、粘膜絨毛輸送機能低下により、出生後まもなく新生児呼吸不全をきたし、その精査の過程で本症が診断されることも多い。また、内臓逆位や先天性心疾患を伴うこともある。一方、成人では、気管支拡張症に加えて、慢性副鼻腔炎、滲出性中耳炎などの臨床症状が生じる。男性の約半数に不妊症がみられ、女性では不妊や子宮外妊娠の原因となる。

絨毛は、動的線毛と動かない線毛に分けられ、動的線毛は、気道の線毛上皮細胞、脳室上皮線毛、卵管細胞などの限られた細胞にのみ存在する。A管とB管からなる9対の周辺微小管が、ネキシリングと呼ばれる構造で架橋され、中央には2本の対となる中心微小管があり、「9+2」と呼ばれる構造をとる。外腕・内腕ダイニンが、規則正しく周辺微小管に結合しており、隣接する周辺微小管を滑る事で絨毛運動が引き起こされる。
また、発生初期の左右軸の形成に重要な原始結節には1本の線毛をもつ細胞がある。中心微小管のない「9+0」構造をとるが、回転運動を行うことでサイトカインの濃度勾配をもたらして左右軸を形成する。なお、左右軸の決定には、他の因子も関連することから、内臓逆位のすべてに絨毛異常を伴うわけではない。また、男性の精子は線毛とは異なるものの「9+2」構造の鞭毛を備えており、精子の鞭毛運動異常による不妊の原因となる。