山田悟先生・・・糖尿病診療ガイドラインの刊行が遅れている理由

糖尿病に対する”ロカボ”を推奨し、糖質制限を推進されている山田悟先生の記事です。 メディカルトリビューン誌より。

山田先生は、論文を精査批評し、糖質制限の学問的正当性を主張しておられます。

 

以下引用

研究の背景:日本の糖尿病食事療法の転換点、ガイドライン刊行も遅れる

日本糖尿病学会の『糖尿病診療ガイドライン』はおよそ3年に一度改訂されており、本来、今年(2019年)は『糖尿病診療ガイドライン2019』が刊行される予定の年である。通常は毎年5月に開催される年次学術集会に合わせて刊行されるので、既に世に出ているはずあった。しかし、食事療法についての内容が定め切れないとのことで5月の刊行が見送られ、9月末までずれ込む見通しである。今まさに、日本における糖尿病食事療法の転換点が到来しているのである(なお、私自身はガイドラインの作成委員ではなく、その改訂内容を9月4日時点で全く知らない)。

この転換のポイントを私なりに2つ挙げるとすると、1つは糖質制限食を新たに採用するかどうかであり、もう1つがエネルギー制限食をこれまで通りに採用し続けるかどうかである。ガイドラインは必ず根拠に基づくものでなければならないという現在のルール(Ann Intern Med 2012;156:525-531JAMA 2019年7月19日オンライン版)に従えば、私たちのシステマチックレビューに基づき、糖質制限食は積極的に採用し、エネルギー制限食は採用をやめるということになる(Nutrients 2018;10:E1080)。

しかし、なお因習にとらわれ、エネルギー制限食を推奨し続けたいと欲する人たちもいるようであり、それがガイドラインの刊行の遅延につながっている(と思われる)。そんな中、エネルギー制限食に関する新たな解析データが発表され、肥満合併2型糖尿病患者がエネルギー制限食+身体活動増加によって体重を減らし、HbA1cを改善しても、心血管疾患リスクは減少しない可能性が示唆された。それも、エネルギー制限食研究の金字塔とも言うべきLook AHEAD試験のポストホック(事後)解析においてである(Diabetes Care 2019年8月15日オンライン版)。

 

こちらは、アメリカ糖尿病学会の糖質制限の評価

一方、6年ぶりに改訂された米国糖尿病学会(ADA)の食事療法勧告(名称としてはコンセンサスレポート)では、糖質制限食の立ち位置が変更され、「患者の必要性や嗜好に応じたいずれの食事様式においても、血糖を改善することを実証してきた糖質制限が適応されてよい」(どういう食事様式でもよいが、糖質を制限することが血糖管理法であるの意)との記載となった(Diabetes Care 2019;42:731-754)。これは2013年に、さまざまな食事様式が推奨可能として地中海食、DASH、ベジタリアン食、低脂質食、糖質制限食が並列にされていたところから大きな変更と言えよう(Diabetes Care 2013;36: 3821-3842)。