温熱療法室

JR広島病院の広報誌より

医師 小野英二先生 名誉院長

悪性腫瘍に対する温熱療法(ハイパーサーミア)について

当院では、新病院においてハイパーサーミア治療室(温熱療法)を設置し、サーモトロンRFSを配備し悪性腫瘍に対する温熱療法を開始します。この治療は、癌など悪性腫瘍が正常組織に比べ熱に弱いという性質を利用し、サーモトロンRF8という装置を用いて、腫瘍組織を中心に局所の温度を選択的に42℃から44℃の高温状態を作り出すことにより、腫瘍を縮小あるいは予後を延長させることを目的とした治療法です。

1.対象となる疾患

脳など頭蓋内の領域を除く悪性腫瘍のうち、体中すべての悪性腫瘍が適応となります。手術や内視鏡治療等で治療が可能なものではそららの治療を優先すべきですが、手術で切除できない進行がんや再発がん、体力的に手術を受けられない場合なでおが適応となります。抗癌剤などの化学療法や放射線治療との併用療法の有効性が高く、通院での治療も可能です。

2.治療の原理

身体の表面だけでなく、深部まで到達する8MHzの高周波を用いて、ターゲットとなる腫瘍の領域を選択的に加温します。正常組織は、加温されると組織内の血管が拡張し、組織の温度上昇を抑制しますが、腫瘍組織内の血管は拡張しにくい構造となっているために、組織内の温度が上昇し、結果として効率的な加温がされます。したがって、主要部分が腫瘍部分が選択的に熱によるダメージを受けます。また、放射線治療や抗がん剤の治療中の組織では、この効果がさらに増幅されることが証明されています。また、温熱治療により免疫担当細胞が活性化され、腫瘍免疫の増強により、癌に対する抑制効果につながることも知られています。

診療実績

2016年1月に新病院での診療開始時に広島では初めての電磁波温熱療法を導入し2023年3月末の時点で7年2か月となります。この間に426例の悪性腫瘍の患者さんに対する診療を行ってきました。そのほとんどは、遠隔転移や、リンパ節転移、腹膜播種などを伴う高度進行・再発の極めて厳しい状況の患者さんです。その中で最も長期になる艇は、前立腺がんの骨転移、肺転移のあった事例で、現在6年10か月を経ていますが、再発病変はなくCRno状態を維持されています。

2022年度は新規に35例の治療を開始しています。最も多かったのはは肺癌の7例でした。ついげ、卵巣がん6例、大腸がん5例、膵癌5例、乳癌4例、胃癌と前立腺がん、子宮がんがそれぞれ2例、胆管がんと腎がんが1例ずつと、様々な臓器の癌に対して治療を行っています。いずれもステージ4の症例で、他院での治療継続中でPDの状況にある方々でした。

今回、現在までに、3年以上治療継続できた23名の患者さんにつき検討してみました。

 

性別は男性8例、女性15例。年齢は33歳から88歳。疾患別の内訳は、肺癌5例、乳癌4例、大腸がん4例、胃癌2例、膵癌1例、卵巣がん2例、子宮平滑筋肉腫1例、前立腺がん1例、肝細胞癌1例、十二指腸乳頭がん1例、胸腺がん1例と様々でした。発症時、手術不能であった例が7例、手術後の再発例は16例、いずれの症例も化学療法の治療歴を有しており、ハイパーサーミア開始時のクリニカルステージでは、乳癌、大腸がん、胸腺癌のそれぞれ1例ずつの3例のみがステージ3、その他はいずれもステージ4でした。治療開始3年後の臨床的評価としては、CR7例、PR1例、SD5例、PD10例でした。それぞれの症例は、治療開始時の進行度を考えれば、ハイパーサーミアによる予後延長効果が示されたと考えています。