不器用力と浪人力
あきびんごさんは、広島出身の画家です。私はこの文章がとても好きなのです。
2017年12月3日 不器用力と浪人力
ようこそ ことばのアトリエへ 文と絵・あきびんご
ケイパブル Vol 4より
美術の道に進もうと、美大予備校のM先生に相談しました。
先生は私の絵を見て「こんなに不器用なものが、よく東京芸大をめざすね。でも不器用こそ絵の才能だから、ここまで不器用なら、合格さえすればいい絵描きになれるかもしれない。
いいか、絵の道はとても厳しい。たとえ東京芸大をでたからといっても、絵では食べていけないよ。
入るのが一次試験で、本当の試験は入ってから始まる。だから、何浪しても行くしかない。君は何浪までがんばれるかな?
合格するには、絵の力よりも何浪できる力が大切だからね」と言われ、びっくりしました。
こんなことは他の誰も教えてくれませんでしたが、これこそが真理であり愛情でした。私はこの言葉に励まされて、苦労よりも楽しさが多かった2浪を経て合格し、今も絵の仕事ができており、貴重な恩人に出会えたと感謝しています。
だから、みなさんにも伝えたいのです。
私が入学した日本画23人のうち3人が現役合格でしたが、自分の絵が描けないまま消えていきました。
彼らは能力があるのだから、もし浪人していれば、もっといい絵が描けたと思います。
東京芸大に入るには器用さが必要ですが、その後は独創力が必要なため、還暦まで描きつづけている人は1割程度しかいません。
なかでも大活躍している人を見ると3浪4浪組が多く、「1年生のときから異彩を放っていた」という人ばかりです。
独創力は不器用さの中にあるのですね。
浪人したくてする人はいないのですが、結果的に「寄り道っ子、世にはばかる」となるのは、不安だらけの浪人中に培った精神力・雑学力・読書力・哲学力によるものでしょう。
浪人力や留年力は、経験しないと身につきません。私は2浪2留でしたが、やってみれば「なんでも勉強」で割とおすすめです。